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2010年12月15日
山岡 テイさん/情報教育研究所所長 文学博士(心理学)
皆さま。初めまして、山岡テイと申します。
前々回の夏目鏡香さんからのご紹介で、このリレー・エッセイに参加させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
とさかまさこ先生の「からだもこころも幸せに年を重ねる」という思いに満ちたHPでお話できることを嬉しく思います。
★身近に増える多文化な家族
現在、日本に住む外国人登録者数はおよそ218万人で人口の1.71%を占めており、上位5位は「中国、韓国・朝鮮、ブラジル、ペルー、米国」ですが、南米出身者数は不況の影響もあり昨年は減少化傾向にありました。その一方で外国に住む日本人(在留邦人)数は113万人と増加が続いています(法務省入国管理局2010年7月、外務省・海外在留邦人数調査2010年6月)。
そのような内外の情勢の中で、私達が日常的に多文化な家族に出会い交流する最前線は、地域の保育園や幼稚園の親子同士です。ところが、園の現場では日本語でコミュニケーションが十分にはできない、あるいは、育児文化背景が異なる場合には、保護者と保育者の双方でさまざまな行き違いも出てきます。しかしながら、子どもが健康で幸せに育って欲しいという願いは国や民族を越えて共通する思いでもあります。
また、日本の中の「多文化子育て」や「多文化共生」の実態は地域によって大きく異なっていて、必要とされる社会支援や行政施策の内容や質も一様ではない状況です。
★母語や母文化を子どもに伝えたい
私は育児や教育、地域での社会支援をテーマにした調査研究を日本国内や海外で長く続けています。とくに、近年は「多文化子育て」をテーマにしており、現在も日本に住む外国につながる子育て中の保護者を対象に「多文化子育て調査」を関東・関西を中心にして全国で進行しているところです。その調査結果が今後も増え続ける多文化子育てへの理解を深めて、園や地域、自治体での支援を多面的に検討するためのさらなる一助になればと願っております。
現在、実施中の調査は2000年に行った「第1回多文化子育て調査」とほぼ同じ内容項目で、10年後にはどのように変化してきたかを検討する経年比較です。前回は中国語・韓国朝鮮語・タガログ語・タイ語・ポルトガル語・スペイン語・ベトナム語・カンボジア語・ラオス語・英語・ふりがなつき日本語・日本語の11言語12種類のアンケート用紙で行い、65カ国籍・2002人の日本で子育てをしている保護者の生活と意見が集まりました。
調査結果では日本に住んでいても自分の母語や母文化を子どもに伝えていきたい、子どもが病気のときに預ける人がいないなど様々な悩みがあげられていました。また、子どもの日本語が上達するのは嬉しい半面、母語を学ぶ機会がないと祖父母とのコミュニケーションがとりにくくなるだけではなくて、母語や母文化に根ざす子ども自身のアイデンティ形成の問題にもつながります。これはどの国に住んでも外国人の家庭に共通する課題です。詳しい調査の結果は、報告書の全文を日本語と英語のHPで公開していますのでご案内します。
「多文化子育てネットワーク」 http://www.tabunkakosodate.net/
★目に見える違いと目に見えない違い
海外の多文化国家の保育園に行きますと、肌や目の色、髪の毛の色が歴然と違う子ども達が隣にすわりお昼ご飯を食べていて、子ども心にもその違いがわかりやすいのです。
しかし、日本では、さまざまなアジア人同士が異なった文化背景をもっていても、外見上では見分けがつきにくく、その背景には目には見えない慣習や社会規範の違いが存在しています。これからは今まで以上にお互いの歴史的関係を学び合い、現状と将来に向けての建設的な話し合いや相互理解が必要な時期に来ていると思います。
★「多文化子育て」とは
「多文化子育て」という言葉は、「多文化な背景をもつ家庭での子育て」を略して2000年の調査のときに私達が初めて使った造語です。その後、多くの人達や官公庁も「多文化子育て」と表現して、現在は市民権を得ているようです。この言葉には、多様な違いを受け入れながら豊かな子育てを共にめざす思いを込めています。
そして私達は「多文化」の定義を、従来の『性差、民族、国籍や地域、宗教などの違い』だけではなくて、『心身発達の個人差、異なる環境で成育したさまざまな背景、世代間や価値観の違い』も含めて広い意味でとらえています。
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★文化や価値観が違っても「マジック・ワード」
私は毎年、数カ月から半年は海外調査のために、自分の目と足を使ってさまざまな国を訪ね歩いています。そして、どの国でも現地人である友人達の自宅に泊めてもらうことが楽しみです。それは、定期的に訪れては、友人家族の成長変化を親戚のように受け止められるからです。さらに、彼らが地元でのネットワークを駆使して私の調査を援助してくれることが、長年に渡って現地調査を続けられる大きな支えにもなっています。
育った成育背景、世代、言語や宗教なども異なる彼らの家で日々過ごしていると、そのたびに理解が深まるとともに、お互いの価値観や違いも再発見します。
その具体的な体験としては、他の国で起きた事件を日本と滞在中の国のマスコミを通して聞いた時には、まったく異なった捉え方で報道されており、同時にその国の人々がどのように受け止めているのかが確認できます。それは、国交の関係性や歴史背景、それぞれの国の社会構造などが違うためですが、同じ事件も居住環境によって違った側面から描かれた見かたで私達は記憶に留めることを実感します。
その一方で、海外の多文化な国の園や学校では「マジック・ワード」と呼ばれて、日常的に使われる言葉があります。それは、『ありがとう』と『どうぞ』です。これは相手に対する「感謝」と「敬い・譲る」心を表わしています。文化や価値観、環境が違っていても私達がどこでもいつでも最初に覚えて使いたい言葉です。
★お互いの「違いを認めて共に生きる」
「ルビンの杯」といって、見かた(視点)によっては白い部分が横顔にも見えるし、黒い部分を「図」としてみると杯(壺)で、白い部分が背景の「地」に見える「図地反転図形」を見たことがある方もいらっしゃると思います。
この図形のように、自分と違った価値観や環境に身を置くことで、初めて自分の考えや輪郭がはっきりとわかることがあります。それは、文化が異なる外国に行かなくても、私達は世代や価値観、心身の状態が異なる人と日常的に出会う場面を経験しています。
自分と異なった考えや生き方の人をどのように理解して受け入れていくかはいろいろな方法があると思いますが、基本は相手の個性や特徴をそのまま認めることから始まります。そして、類似点や相補性を発見していくことです。
『好意の返報性』と言って相手の生き方に好意をもって接すると、必ずそれがブーメランのように自分に戻ってくるように対人関係には相互作用があります。
からだやこころの痛みや悩みの深さには個体差があるように、他の人の喜怒哀楽を同じように感じることは難しいことですが、共感する思いや態度は伝わるものです。
毎日の家族や友人関係の中で、相手のこころのメッセージに耳を傾けることが、多文化共生の第一歩になるように思っています。
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山岡テイ
情報教育研究所所長 文学博士(心理学)
多文化共生時代の育児教育や子育て支援環境の現場を日本や海外で広くフィールドワークし、国際比較調査を続けている。
著書に『多文化子育て』学習研究社、『地域コミュニティと育児支援のあり方』ミネルヴァ書房、『なおるアトピー』労働旬報社ほか。共著に『育児Q&A1500』保健同人社、『育児の事典』朝倉書店など。
日本子ども家庭総合研究所・立正大学・跡見女子学園大学兼任講師
インターネットの「愛育ねっと」で『世界の多文化子育てと教育』を連載中。
http://www.aiikunet.jp/tag/yamaoka