« 益成亜由美さん/A-kitch-n-et (エー・キチネット) | メイン | 西田あや子さん/手づくり教室・キッチン彩(あや) »
2007年03月15日
前嶋温子さん/版画工房 Litografia
今月は、版画工房 Litografiaの前嶋温子さんをご紹介します。
【 プロフィール 】
前嶋 温子
版画工房 Litografia
〒753-0011山口県山口市宮野下1882-12
TEL&FAX: 083-920-6065
E-mail: hangakobo_litografia@yahoo.co.jp
URL: http://www3.ocn.ne.jp/~g-nakano/m-m.htm
【 経歴 】
版画家
神奈川県生まれ
【 略歴 】
1997 武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画コース卒業
2003 個展(宇部市・画廊喫茶ポカラ)
2003〜2004
リョッジャ美術学校リトグラフコース(スペイン・バルセロナ)
2005 個展(山口市・ギャラリーナカノ)
グループ展(宇部市・菊川画廊)
2006 グループ展(萩市・ギャラリー草莽)
2人展(宇部市・ギャラリーすえひろ)
お引っ越し展♯2(防府市・アスピラート)
グループ展(周南市・ギャラリー庵)
2007 コラージュ展(山口市・KOシルバー)
PRINTS TOKYO 2007入選
【 今後の予定 】
4月20〜23日 保手濱拓・前嶋温子2人展(山口市・喫茶ういるびー)
9月14〜25日 立石恵・前嶋温子2人展(山口市・ギャラリー和)
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
■ リトグラフと私
私がリトグラフ(石版画)と出会ったのは、大学3年生の頃。
大好きだった油絵に行き詰まり、ほんの少し目先を変えるつもりで
版画のコースを選択したのがきっかけでした。
それまでの乱雑な油絵科のアトリエとはうって変わり、
道具類やプレス機が整然と並んだ工房で制作するリトグラフ。
そして、想像以上に複雑な工程や、版画独特のアカデミックな価値観に戸惑い、
元来不器用なくせにチャレンジャーである私は、教室の中ではまるで落ちこぼれでした。
ところが、飽きもせずに実験と失敗を繰り返していたある時、
ふと「今までのリトグラフにはない表現が、自分には出来るんじゃないか?」
なんていう妄想が湧いてきたんです。まるで根拠のない思いに突き動かされ、
卒業制作は学校に泊まりがけで作品づくりをしました。
体はボロボロなのに、楽しくて楽しくてしょうがなかったのを覚えています。
『鶏肉とカシューナッツの炒め物』 (リトグラフ) 『ドクダミ草』 (リトグラフ)
■ 東京から宇部へ
卒業後は大学の近くにあった印刷会社に就職しました。
コンピューターでデザインしたり版下を作ったりする仕事でやり甲斐はあったのですが、
手を汚さないで済むものづくりに、常にどこかで物足りなさを感じていました。
と同時に卒業時に芽生えたリトグラフへの熱い想いが、
いつも心の片隅で小さなの炎のように揺らめいていました。
結局、2年で会社を退職し、中野にあった貸し工房に通うようになりましたが、
大学時代と異なる環境でブランクもあったために、そこでの制作は思うようにいきません。
その時に初めて「自分の工房を作りたい」と強く思いました。
その後は、会社員時代に貯めたお金でプレス機を買い、
大学の頃からつき合っていた彼(現在の夫)の地元である宇部に引っ越しました。
東京で6年暮らしてみて、都会ではないところで落ち着いて制作してみたいという考え(思いつき?)
に至ったからです。
もともと順応性が高いのか宇部での生活にはすぐに慣れ、再度印刷会社に勤めながら、
徐々にリトグラフの工房づくりを始めました。
ところが、一から設備を整えていくのは至難の業で、
仕事も忙しかったためになかなか作品も出来ません。
20代の最後を迎えていた私は、微かな焦燥感とともに、次のステップに進む足がかりを探していました。
■ スペイン留学
そんなある時、彼の高校時代の恩師である長門の彫刻家の方が、
スペインでリトグラフを学んでいるという情報を耳にしました。
一時帰国されていた先生に詳しく話しを聞いた後、すぐにスペインに留学することを決意。
長年の夢でもあったヨーロッパ暮らしに胸を躍らせながら、バルセロナに渡りました。
留学先は街の中心地にある専門学校で、クラスメイトは地元のスペイン人と南米人。
先生だけが英語を話し、あとはすべてスペイン語という環境。
最初こそ不安でしたが、スペイン人の人懐っこさにすぐに緊張はとけていきました。
また、ガウディの建築が点在するバルセロナの古い街並みは、歩いているだけで五感が刺激され、
日本で頭でっかちになっていた私の心を少しずつ溶きほぐしてくれるようでした。
街の至る所でアートに触れ、たくさんの友達をつくり、充実した7ヶ月の留学生活は、
あっという間に過ぎてしまいます。
結局リトグラフの技術そのものよりも、皮膚から吸収したアートの空気感の方が、私にとって新鮮でした。
どんな雑多な情報よりも「自分の感性を信じることの大切さ」をスペインで再認識したような気がします。
『スープボウル』 (アクリル・コラージュ) 『朝の風景』 (アクリル・コラージュ)
■ 生活とアートと
帰国してからは、結婚・引っ越しそして工房づくりとバタバタと時が流れ、
現在やっと落ち着いて、制作と家事とのバランスも取れるようになってきました。
手づくりの小さな工房で、自分なりのリトグラフの表現方法を模索する毎日です。
以前から、日常をモチーフにすることが多かったのですが、結婚後はいっそうその傾向が強くなりました。
絵描きである夫から、何年か前に「俺はクリエイターで、お前はトランスレーターだ」
と言われたことがあります。
次から次へとスタイルを変え、新しいものを生み出していくクリエイタータイプの彼。
一方私は、まずは日々の生活を慈しみ、その中で発見したことを、
作品に投影させていきたいタイプです。
洗濯をしながら、料理を作りながら、散歩をしながら自分が感じたことを色や形に置き換えていく
作業は確かに・トランスレート・(翻訳する)と言う方がしっくりくるのかも知れません。
これから先も、その時その時に感じた事を丁寧に表現しながら、
ライフワークであるリトグラフを続けていきたいと思っています。
投稿者 green_heart : 2007年03月15日 09:37