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2005年07月15日
鈴木(堀田)眞理さん/GRIPS
今月は、山口県出身の鈴木(堀田)眞理さんをご紹介します。
女性の健康に対して造詣の深い先生です。
詳しくは本文をご覧下さい。
【 プロフィール 】
鈴木(堀田)眞理
・政策研究大学院大学 保健管理センター 教授
・東京女子医科大学 内分泌疾患総合医療センター内科
・東京女子医科大学 女性生涯健康センター
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21世紀の女性の健康を願って
私は防府市の出身です。
大化の改新の遺跡で思う存分遊んだこと、国分寺の仁王様を除くのが怖かったこと、
天神様に合格をお願いしたことは私の思春期の原点で、
歴史の潮流を変える原動力になった長州に生まれ育ったことを密かに誇りに思っています。
今回はこのような機会を頂戴し、私のこれまでと現在について紹介させていただきます。
昭和54年に長崎大学を卒業し、
佐賀医科大学(現佐賀大学医学部)病理学教室で2年間、助手を務めました。
病理学教室では内分泌を専門にしていました。
この頃、教室を訪ねられた聖路加国際病院の日野原重明名誉院長(ご出身は山口県です)が、
「病理学を続けるなら内科も勉強したほうがよい」とのお言葉に背中を押されて、
東京女子医科大学内科の研修医になりました。
卒後2年を経過しても研修医として採用していたのは、当大学だけだったのです。
今は、国立大学の医学生の約30%が女性ですが、当時、母校では女子学生は5%以下でした。
ところが、東京女子医科大学はご存知のように女性のみの医科大学で、
附属病院の研修医の半数も女性でした。
「女性だから」という負の殻をかぶることなく、おしゃれや女性らしさを楽しみながらのびのび学び、
研修できる雰囲気は、私には「目からうろこ」でした。
内分泌学とはホルモンのことです。
体内で作られる物質で、10-12pg/mlほどの少量で生命の維持に生殖機能に重要な働きをします。
たとえば、脳下垂体から出る成長ホルモンが欠乏すると小人症になります。
四谷怪談のお岩は、産後の肥立ちが悪くて命を落としましたが、
出産時の脳下垂体の出血でホルモンが作られなくなったと考えられていますし、
ケネディー大統領はアジソン病という副腎の、
41代米国大統領のブッシュはバセドウ病という甲状腺の病気でした。
その頃の内分泌学は、新しいホルモンの構造や機能がどんどん明らかにされる発展時代でした。
当時の教授、鎮目和夫先生は女医を育てることに積極的で、多くの女医が留学し、
診療や研究で成果をあげていました。
「医者とはいえ女性は社会では不利だから資格を取りなさい」と、
女性医局員に第1回の日本内科学会の認定医試験を受けることも勧める方でした。
私も学位をいただき、1985年、30歳で米国San Diegoのソーク研究所に留学しました。
ソーク研究所はカリフォルニア州の美しいリゾート地、ラ ホーヤにあり、
小児麻痺ワクチンで資金を得たジョナス ソークが設立した私立研究所です。
最近亡くなった、DNA二重らせんの発見者、フランシス クリック博士など
多くのノーベル賞受賞者が在籍し、
私は1977年の医学生理学賞受賞者のロジャー ギルマン先生のもとで2年間、
研究させていただきました。
「人類のために奉仕しろ」とよく言われました。
私はストレスと脳内ホルモンに興味を持っていました。
ねずみを水攻めにしたり、ほかのねずみが苦しんでいる姿を見せるいう
心理ストレスを与えたりすると餌を食べなくなります。
一方、尻尾を十秒ピンチで挟むというストレスを与えるとどか食いしてしまいます。
これは脳内のストレスに反応したホルモンの影響です。
ヒトでも心理ストレスで発病する心身症という病気があります。
朝、出勤しようとすると腹痛が出る過敏性腸症候群もそのひとつです。
今、若い女性に増加しているのが摂食障害です。
摂食障害は、心理的な原因で食行動に異常をきたす病気です。
少食になって極端にやせる拒食症と、反対に、衝動的にどか食いの発作を起こす過食症があります。
欧米先進国に多く、日本でも1980年代から、思春期〜青年期の女性に増加しています。
摂食障害は精神病でも、本人のわがままでもなく、心身症という病気です。
心の問題を適切に解決できず、体に症状が出るのです。
進路や人間関係の挫折体験をきっかけに発病します。
挫折体験とは特別に難しい問題ではなく、学校や会社での人間関係を深刻に捉えすぎていたり、
希望通りの進学や就職ができずに鬱々していたり、
周囲の期待に応えなければいけないと自分で過剰なプレッシャーをかけて疲れ果てていたり、
だれもが多かれ少なかれ経験したことのあるテーマです。
失敗の経験が少ないまじめな若年者が、
大人になる過程でどうしてよいのかわからず戸惑っている状態です。
やせると思考力も感受性も鈍磨するので、
やせは見たくない現実やできない自分から逃避する手段になっています。
また、過食は、アルコール症に似て、つらいから食べる、食べている最中は嫌な現実を忘れられる、
食べた後は太るしもっと憂鬱、という悪循環を繰り返すのです。
専門治療施設は限られており、家族や周囲は必要以上に深刻に考えすぎたり、
あるいは、どう対応してよいのかわからないまま何年も過ごして悪化してしまいます。
厚生労働省の難治性疾患克服研究に指定され、私も班員の一員として活動しています。
まだまだ医療者もよく知らない病気のため、患者さんと家族は、受診した医療機関で理解してもらえず、「気合がはいっていない」「わがままだ」「精神病だ」「食べれば治る」といわれて
つらい体験をすることも少なくありません。
心理的治療とともに、低栄養による無月経、低身長、骨粗鬆症などの重大な合併症を伴い、
内科的治療はとても重要です。
1987年から東京女子医科大学附属病院で専門外来を開設して、
登録患者さんは1000名近くになりました。
2002年に、現職になっても、東京女子医科大学は兼務で診療は続けています。
後進の医師や臨床心理士を育て、勉強会や講演会を開いて家族をサポートする目的で
EATファミリーサポートの会を主催しています。
毎月1回は、日本のどこかで啓蒙活動として講演しています。
多くの人に本症を理解していただくために、
家族や一般読者向けに「乙女心と拒食症」(インターメディカル 1999)を、
医療者向けに「内科医にできる摂食障害の診断と治療」(三輪書店、2002)を執筆しました。
そして、今年の7月に、小中学生と養護の先生を対象に「ダイエット障害」を出版します。
「なぜ(好き好んで)この病気の治療に携わるのですか」と質問されます。
というのは、摂食障害の患者さんは飢餓のために心理状態や行動が異常で、
医者にとって扱いにくい病気だからです。
たぶん、「原因不明、治療困難」といわれる病気だったので、「解明したい」と意欲をそそられたのです。そして、一番の理由は、
私たちが通ってきた道で躓いている21世紀を担う若い人の力になりたいと思ったからでしょう。
私は、少女時代、防府市で瀬戸内海や大平山を眺めながら、近くの毛利邸で犬を散歩させながら、
21世紀には私はどんな人生を送っているのだろうとよく想像をめぐらせていました。
田舎の単なる文学少女には思いもつかなかった50年になりましたが、
貴重な人との出会いや、多くの人の援助を得て、現在、少しでも社会に貢献できることを嬉しく、
また感謝して仕事をしている昨今です。
「一生勉強、一生青春(相田みつを)」が座右の銘です。
尚、私のエッセイ、白い巨塔で長く働く秘訣についての「大学病院で働き続けること」、
私の子育て奮闘記である「ぼくの特技はお留守番」にご興味がある方は、
インターメディカル出版のホームページの女性医師のリレーエッセイ(http://www.intermed.co.jp/)
を覗いて下さい。
投稿者 green_heart : 2005年07月15日 17:44